東京高等裁判所 平成8年(行ケ)202号 判決 1998年3月31日
東京都豊島区南池袋1丁目28番1号
原告
株式会社西武百貨店
代表者代表取締役
米谷浩
訴訟代理人弁理士
鈴木正次
同弁護士
熊倉禎男
同
富岡英次
訴訟復代理人弁護士
田中伸一郎
同
岩瀬吉和
大阪市東淀川区東中島5丁目22番4号
被告
東邦物産株式会社
代表者代表取締役
石田明雄
訴訟代理人弁護士
小原望
同
東谷宏幸
訴訟復代理人弁護士
豊島茂長
主文
1 特許庁が平成4年審判第6625号事件について平成8年7月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、商品区分(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの付属品」を指定商品とし、別紙(イ)に表示する構成のとおり「ギフトセゾン」の片仮名文字を横書きしてなる登録第2350108号商標(昭和63年12月22日登録出願、平成3年11月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成4年4月9日、本件商標の登録を無効とする旨の審判を請求したところ、特許庁は、この請求を平成4年審判第6625号事件として審理した結果、平成8年7月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月21日、原告に送達された。
2 審決の理由の要点(なお、審決の理由の要点において記載される書証は、甲号証については、審決における書証番号に1を加えた数が本訴における甲号証の書証番号である(本訴において該当する書証番号がないものは提出されていないものである。)。)
(1) 本件商標の構成、指定商品及び設定登録日は前項記載のとおりである。
(2) 登録第768847号商標(以下「引用商標1」という。別紙(ロ)参照)は、「せぞーん」の平仮名文字を横書きしてなり、第26類「印刷物(文房具類に属するものを除く)書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、昭和41年12月21日登録出願、昭和43年1月27日に登録され、その後、昭和53年6月7日、昭和63年4月20日の2回にわたり、商標権存続期間の更新登録がなされたものである。登録第1393375号商標(以下「引用商標2」という。別紙(ハ)参照)は、「SAISON」の欧文字と「セゾーン」の片仮名文字を上下2段に書してなり、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、昭和49年6月18日登録出願、昭和54年9月28日に登録されたものであるが、平成元年9月28日存続期間満了によりその商標権は抹消され、平成3年1月10日に、その登録がなされたものである。登録第1422349号商標(以下「引用商標3」という。別紙(ニ)参照)は、「SAISON」の欧文字を横書きしてなり、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、昭和49年6月25日登録出願、昭和55年6月27日に登録されたものであるが、平成2年6月27日存続期間満了によりその商標権は抹消され、平成3年10月11日に、その登録がなされたものである。登録第1814755号商標(以下「引用商標4」という。別紙(ホ)参照)は、「SAISON」の欧文字(「O」の文字部分は円輪郭内に小さい円輪郭を描きやや図案化されている。)と「セゾン」の片仮名文字を上下2段に書してなり、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、昭和58年5月6日登録出願、昭和60年10月31日に登録されたものである(以下、引用商標1ないし4を総称して「引用各商標」という。)。
(3) 原告は、「本件商標の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べている。
ア 本件商標は商標法4条1項8号に該当する。
原告を中心とする「西武流通グループ」は、昭和60年に「西武セゾングループ」と名称を変更し、さらに平成2年7月には正式に「セゾングループ」と称し、現在に及んでいる。前記「セゾングループ」は、通常「セゾン」と略称されるとともに、その構成員は「セゾン」の略称のもとに広汎な営業活動をしている。例えば、株式会社「セゾンダイレクトマーケティング」は、「セゾン」及び「SAISON」の営業表示のもとに通信販売を行っている。
したがって、本件商標は他人の著名な略称を含むものである。
イ 本件商標は商標法4条1項10号、11号に該当する。
本件商標の「ギフト」が「贈り物、贈答品」の意を有することは一般世人に極めてよく知られており、商品「カタログ」については、「その商品カタログは贈り物用品が掲載されたものであること」の意味合いを端的に認識させるものであって、自他商品識別機能が具備されていない。したがって、本件商標は、「セゾン」に要部があり、これより「セゾン」(季節、グループ名称の略称)の称呼観念が生じる。
一方、引用商標4は、その構成文字より、「セゾン」(季節、グループ名称の略称)の称呼観念が生じる。
してみると、本件商標と引用商標4は、称呼、観念において類似する。
また、「セゾン」は、旧西武流通系企業の束としてのグループ企業の総称として著名であるから、本件商標を付した印刷物を見た取引者、需要者は、あたかもセゾングループの発行した印刷物であるかのごとく認識する。
したがって、本件商標は他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標と類似する。
ウ 本件商標は商標法4条1項15号に該当する。
本件商標中の「セゾン」は、原告及びそのグループが広範に行っている広報活動の印刷物に記載された商標と同一又は類似であるから、商品の出所の混同を生ずるおそれがある。
エ したがって、本件商標は、商標法46条1項1号の規定により無効とされるべきである。
(4) 被告は、「本件商標の登録無効の請求は却下する、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べた。
ア 商標法4条1項8号に関して
本件商標の出願時点において、引用商標が原告等を示す略称として著名であったと立証する証拠はない。
さらに、「セゾン」「SAISON」というフランス語を営業表示として使用している第三者は多数存在し、被告の電話帳の調査で判明したものの一部でも、170社存在する。その中には、例えば、越後ステーション開発株式会社及びその子会社が経営するJR長岡駅ビル及び新潟駅ビルについて「セゾン・ド・長岡」、「セゾン・ド・新潟」の名称が付けられているが、「セゾン」の由来は地元の一般住民から公募したもので、既に10年以上前から使用しているものであり、「セゾン」「SAISON」がフランス語の一般名称として誰でもが知っている独創性のない表示であることを示している。
「セゾン」「SAISON」は、一般人にとっては、まず仏語の「季節」ないし「四季」を意味する語として認識されている。原告は、「セゾン」「SAISON」は著名な略称であると主張するが、一般名詞としての本来の普及度に比べれば到底周知とはいえない程度のものである。
イ 商標法4条1項10号、11号に関して
本件商標は、2語を一連不可分に書してなるものであり、「ギフトセゾン」と一気に称呼されるものである。また、引用商標「セゾン」は、取引者、需要者にはフランス語の一般名詞として認識されるのに対して、本件商標は、2語が合わさって「季節の贈り物」なる観念を持つ商標として認識される。本件商標と引用各商標は称呼、観念及び外観上類似しない。
ウ 商標法4条1項15号に関して
原告は、「セゾン」を営業表示として盛大に使用している、また、株式会社セゾンダイレクトマーケティングが「セゾン」「SAISON」の営業表示のもとに通信販売を行っていると主張するが、該カタログは「快適生活大研究」が名称であり、「SEIBU」「西武」「西武ダイレクト」が発行主体として表示されているものであるから、「セゾン」「SAISON」は営業表示とはいえない。また、JCBの会員誌における原告のグループ企業による通販広告においても「セゾン」の表示は使用されておらず、原告の主張は何ら説得力のないものである。さらに、新聞報道においても、自称する場合を除いて「セゾン」の表示は使用されていないから、「セゾン」は原告やそのグループの著名な略称となりえていないことを客観的に証明している。
さらに、実際の取引においても、取引者、需要者は、本件商標と引用各商標とを誤認混同することなく、被告に対して、本件商標を付したカタログを請求している。
エ 前述したように、本件商標と引用各商標は、類似していないものであり、また、「セゾン」は原告等の独自の著名な略称でもなく、需要者間に広く認識されている商標でもない。したがって、商品の誤認混同はありえない。
以上のとおり、本件審判の請求は、商標法4条1項8号、10号、11号、15号の要件が満たされていないものであるから、本件商標の登録が無効とされる理由はない。
(5) よって検討するに、まず、本件商標と引用各商標の類否についてみると、本件商標は前記構成よりなるものであるところ、これを構成する各文字は、同一の書体をもって同一の大きさ、同一の間隔でまとまりよく表されているものである。また、これより生ずると認められる「ギフトセゾン」の称呼も、冗長というものではなく、語呂よく一気に称呼され得るものといえるから、本件商標を構成する各文字の不可分一体性は極めて強いものであって、これより殊更「セゾン」の文字部分のみを抽出して称呼、観念しなければならない格別の理由は見当らない。
してみると、本件商標は、その構成文字に相応して 「ギフトセゾン」の一連の称呼のみを生ずるものといわなければならない。また、本件商標は、その構成中の「ギフト」及び「セゾン」の文字部分が、それぞれ「贈り物」、「季節」などを意味する外来語として知られているところから、全体として「贈り物の季節」なる意味合いを想起させるものであるとしても、なお、一種の造語を表したと理解されるとみるのが相当である。
これに対して、引用商標1、2は、前記構成よりなるものであるから、その構成文字に相応して、「セゾーン」の称呼及び「季節」の観念を生ずるものである。また、引用商標3は、前記構成より、「セゾーン」もしくは「セゾン」の称呼を生ずるものであって、「季節」の観念を生ずるものである。さらに、引用商標4は、前記構成より、「セゾン」の称呼及び「季節」の観念を生ずるものである。してみると、本件商標より生ずる「ギフトセゾン」の称呼と引用各商標より生ずる「セゾーン」もしくは「セゾン」の称呼は、構成する音数の差等により明瞭に聴別し得るものである。また、木件商標は造語よりなるものであるから、「季節」の観念を生ずる引用各商標とは観念において相紛れるおそれはないものである。さらに、両商標は外観上も明らかに区別し得る差異を有するものである。したがって、本件商標と引用各商標は、称呼、観念、外観のいずれの点においても非類似の商標といわなければならない。
次に、「セゾン」もしくは「SAISON」の表示が原告を含む「西武セゾングループ」(平成2年7月に「セゾングループ」と名称を変更)の略称を表示するものとして本件商標の登録出願日にすでに著名であったか否かについてみるに、審決における甲第6号証は「セゾンの歴史」と題する書籍と認められるところ、「西武セゾングループ」の前身である「西武流通グループ」が「セゾングループ」へと名称を変更した経緯を内容とするものであって、「セゾングループ」の文字は多数認められるものの、これを単に「セゾン」と略称している記述は認められない。(もっとも、情報誌の名称としての「セゾンジャーナル」や「せぞーん」、あるいは社名としての「セゾン生命保険」等の文字は認められるが、これが単に「セゾン」と略称されているということには到底なり得ない。)
また、本件商標の登録出願前に発行されたと認め得る審決における甲第7号証ないし第76号証を徴するに、そのうちの審決における甲第11号証ないし第14号証、第18号証、第27号証、第32号証、第48号証、第55号証及び第70号証の新聞記事には、「セゾン」、「セゾン系」、「セゾン社員」、「セゾン流」等の記載が認められるとしても、新聞の記事は、一般的には、紙面や活字数などとの関係、あるいは見出し等の見易さなどとの関係から、記事となる会社等、あるいはその略称の著名性如何にかかわらず、当該会社等の略称が比較的頻繁に用いられるばかりでなく、上記「セゾン」等の文字が用いられている新聞記事のほとんどのものは、記事欄の冒頭部分で「西武セゾングループ」、「西武セゾン」等と記載したうえで、その後は「セゾン」と記載しているところから、該「西武セゾングループ」などの記載以降は、これを単に「セゾン」と略称して記載するといった意図が容易に窺い知れるから、上記「セゾン」等の記載があることをもって、これが原告等の略称を表示するものとして著名なものであったと直ちには認めることはできない。
そして、審決における甲第7号証ないし第76号証中には、「セゾングループ」の記載が数多く認められるが、該文字は、「西武セゾングループ」の略称といえるとしても、単に「セゾン」の文字のみからなるものではないことは明らかである。
さらに、審決における甲第83号証ないし第85号証はいずれも本件商標の登録出願日以降に調査もしくは作成されたものと認められる。してみると、原告を中心とする企業グループ名である「西武セゾングループ」もしくはその略称と認められる「西武セゾン」あるいは「セゾングループ」が本件商標の登録出願日前より需要者間に広く認識されていたことは認め得るとしても、これが単に「セゾン」もしくは「SAISON」とのみ略称され、本件商標の登録出願日前より需要者間に広く認識されていたものとは、原告の提出した証拠によっては認めることはできない。
加えて、本件商標は、前記したとおり、その構成中の「セゾン」の文字部分のみが独立して認識されるものとはいえないから、原告が、同人及びその関連企業グループの著名な略称であると主張する「セゾン」もしくは「SAISON」と本件商標とは、別異のものというべきである。そうであるとすれば、本件商標は、その構成中に他人の著名な略称を含むものとはいえないばかりてなく、被告が本件商標をその指定商品について使用しても、原告の業務に係る商品との間において、その出所について混同を生ずるおそれもないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項8号、同10号、同11号及び同15号の規定に違反して登録されたものということはできないから、商標法46条1項1号の規定により無効とすべきでない。
なお、原告は、本件商標と引用各商標とが類似する商標であることの根拠として審決における甲第81号証を示し、また、本件商標が商品の出所の混同を生ずるおそれがある商標であることの根拠として、審決における同第82号証を示しているが、これらの審判決例と本件とは必ずしも事案を同じくするものではなく、本件審判は、前記のとおり判断するのが相当であって、上記審判決例の判断の結論に左右されるものではない。
3 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、(1)ないし(4)は認め、(5)は争う。
審決は本件商標から生じる称呼及び観念の認定を誤った結果、本件商標は引用各商標に類似しないと誤って判断し、また、「セゾン」が原告を含む「西武セゾングループ」の略称を表示するものとして著名でなかったと誤認した結果、本件商標が「西武セゾングループ」の著名な略称を含まないと誤って判断し、さらに、本件商標と原告グループの商品とが出所の混同を生じるおそれがないと誤って判断したものであり、違法であるから取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(商標法4条1項11号の適用についての判断の誤り)
ア 本件商標の指定商品である第26類の「印刷物」は通信販売、訪問販売等に使用する商品カタログを含むものであり、本件商標も、商品カタログに使用されている。
一方、「ギフト」の語は、極めて古くから「贈答品」を意味する普通名詞として使用され、商品カタログ、特にお中元、お歳暮の時期や結婚特集等の贈答用商品のカタログにも極めて普通に使用されている。そして、数多くの著名な百貨店やクレジットカード会社が、その発行するカタログに「ギフト」「GIFT」の語を使用し、かつ、同じ表紙ないし同じ刊行物にその営業主体を示す標章(三越、そごう等)を表示してきている。その表示方法の実態からすると、本件商標がその指定商品である印刷物、特に商品カタログに使用された場合には、「ギフト」の部分は、贈答用の商品カタログを表示するものとして需要者に理解されるものであるから、自他商品識別機能を有しない。
イ 被告による本件商標の実際の使用方法も(本件商標の使用といえるか否かは別として)、別紙(ヘ)のようなものであり、被告自身が、「セゾン」の部分が自他商品識別機能を有する部分であって、「ギフト」の部分は贈答品用の商品カタログに付すべき別個の一般名詞としてしかとらえていないことが認められる。
ウ 小嶋外弘及び棚橋菊夫作成の平成7年2月15日付「企業イメージ・商標イメージについての実験調査報告書」、小嶋外弘作成の同年10月15日付意見書、並びに小嶋外弘及び棚橋菊夫作成の同月22日付「言語連想実験報告書」によれば、「カタログの名称として「ギフトセゾン」と書いてあるのを見たとき、次の二つを比べた場合どちらの方をより強く思い浮べますか?(○印は一つだけ)
1 「セゾン」のギフトカタログだと思う
2 「ギフトセゾン」という固有名詞のギフトカタログだと思う」
という問について、1を選んだ者が72.3パーセント(「セゾン」を知名していない者(以下「未知名者」という。)では62.2パーセント)、2を選んだ者が27.7パーセント(未知名者では37.8パーセント)であり、このことからも、原告の前記アの主張が裏付けられる。なお、上記の調査は本件商標出願後のものであるが、未知名者についてみれば、出願後調査時点までの「セゾン」の周知性の変化を捨象した結果が得られるはずである。
そして、未知名者がこのような判断をするとき、「ギフト」と「セゾン」を分離して観察していることは、上記調査の問6の結果にあらわれている。すなわち、「「ギフトセゾン」という名称を見たとき、「ギフト」と「セゾン」のどちらの方に注目しますか?」という問に対し、「両者を分けて考えられない」と回答したのは未知名者中27パーセントにすぎず、73パーセントは両者を分離して観察しているのである。
エ これに対し、「セゾン」は、フランス語の「季節」を意味する「SAISON」の音をカタカナ表記した語であるが、未だ日木語としての普通名詞ということはできず、しかも、旧26類の指定商品である印刷物等に普通に使用されるものでもない。
まして、後述するように「セゾン」は、本件商標出願当時に既に極めて著名な商標として社会一般に知られており、極めて高い識別力を有する言葉である。
オ 以上のとおり、本件商標においては、「ギフト」の部分は指定商品に属する商品カタログに普通に使用される名詞として自他商品の識別機能を欠くものであり、他方、「セゾン」の部分には強い自他商品の識別機能が認められるため、本件商標が商品カタログ等に使用される場合には、単に「セゾン」と略称されることが十分に予想されるから、外観上のまとまりや全体の音節等にかかわらず、両部分を分離して観察することが妥当である。
そうすると、「ギフトセゾン」からは、「セゾン」の称呼が生じ、これが引用商標1ないし4から生じる「セゾン」又は「セゾーン」の称呼と類似することは明らかである。
カ 「ギフトセゾン」という全体の商標から一つの観念が生じるとしても、それは、「「セゾン」のギフト(贈り物)」と観念され、同商標がギフトカタログを含む印刷物に使用されるときには、「ギフトセゾン」は観念上「セゾン」と類似する。
審決は、本件商標全体から「贈り物の季節」なる観念が生じると認定したが、これは、「ギフト」の普通名称性及び「セゾン」の語源であるフランス語の「SAISON」の意味に対する認識の低さを考慮すると、上記認定は経験則に反するものである。
キ 以上のとおり、本件商標と引用商標は類似するものであり、また、両者は別異のものということはできないから、これを類似しないとした審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(商標法4条1項8号の適用についての判断の誤り)
ア 原告グループの規模等
原告を中心として、株式会社西友ストアー、西武産業株式会社、株式会社マンロー商会、西武青果綜合食品株式会社、西武自動車販売株式会社、朝日ヘリコプター株式会社、東洋航空事業株式会社等のグループ(以下「原告グループ」という。)は、昭和38年7月から「西武百貨店・流通資本グループ」として密接な事業提携の下で結束し、その後「西武流通グループ」と称したが、昭和60年に「西武セゾングループ」と名称を変更した。なお、原告グループは、平成2年7月には、「セゾングループ」と称し、現在に至っている。
原告グループは、昭和63年当時、10企業グループ、ほぼ120社により構成され、従業員総数約13万人(うちフルタイムの従業員7万6900人)、クレジット取扱高3489億2800万円、クレジットカード発行数500万枚であり、昭和61年の売上総額は3兆800億円であった。
原告グループの際立った特徴は、多角化が顕著で、金融・保険、外食、地域・都市開発、航空、製造、ホテル・サービス・各種文化事業等事業活動が極めて広範囲にわたっていることである。
イ 原告グループのグループ標章としての「セゾン」等の標章の著名性
<1> 原告グループの営業活動においては、「セゾン」、その欧文字表示「SAISON」、そのOを二重にした「SAIS◎N」(以下、この3標章を総称して「セゾン等標章」という。)を営業表示として使用していることは広く知られている。これらセゾン等標章からは、いずれもセゾンの称呼が生じる。
<2> 原告グループは、グループとして、新聞広告、ポスター広告、テレビ番組「セゾンスペシャル」やFM放送番組の提供、イベントへの協賛・広告の出稿等により、計画的、積極的にその存在及び名称についての広告活動を行ってきた。
<3> また、原告グループの広汎かつ強力な営業活動及び宣伝広告活動の結果、原告グループ及びその構成会社が、「セゾン」又は「セゾングループ」の表示のもとに報道されることは極めて多い。これらの見出しに「セゾン」と記載されている場合は、その後に記事本文中に「西武セゾングループ」と記載されていることが多いが、これこそ、読者に原告グループの略称が「セゾン」であることを印象付けるものであり、また、「セゾン」と略称して不自然さがなく、十分に意味が通じるからこそ、これを見出しに採用するものである。
<4> 原告グループに属する株式会社クレディセゾン(以下「クレディセゾン」という。)は、原告グループの統一カードとして「セゾンカード」を発行しており、昭和62年末の発行枚数は475万枚、加盟店数は10万店であった。セゾンカードの表面には、「SAIS◎N」の文字が一際目立つように記載されており、利用者がカードを利用すると、「セゾンカードご利用明細書」が小冊子「Petite SAIS◎N」と共に送付されるが、その封筒、通信文書及び小冊子には、「セゾン」、「SAIS◎N」の標章が使用されている。
<5> 原告グループに属する株式会社エス・エス・コミュニケーションズは、「チケットセゾン」の営業表示のもとで各種チケットの販売を行い、新聞、雑誌にチケットセゾンの広告を掲載している。
ウ これら、セゾンスペシャル、セゾンカード、チケットセゾンの普及により、これらに共通する「セゾン」が著名となったことはいうまでもない。そして、これらは常に「西武セゾングループ」、「セゾングループ」と併用されることにより、また、別個に使用される場合も、原告グループの強力な宣伝によって、これと容易に結び付けることができるために、「セゾン」は「西武セゾングループ」の略称として著名になっていた。
そして、本件商標は「セゾン」を含むものであるから、商標法4条1項8号に該当する。
エ 審決は、新聞記事の、「セゾン」、「セゾン系」、「セゾン社員」、「セゾン流」等の記載は、新聞には、紙面、活字数や見出し等の見易さなどとの関係から、略称の著名性如何にかかわらず、略称が比較的頻繁に用いられることと、上記「セゾン」等の文字が用いられている新聞記事のほとんどのものは、記事欄の冒頭部分で「西武セゾングループ」、「西武セゾン」等と記載しているところから、上記「セゾン」等の記載が原告グループの略称として著名なものであったと直ちには認めることはできないと判断した。しかし、本件の場合には、上記のような組織的、戦略的な営業、宣伝により、様々なマスメディア、イベント、営業を通じて略称の定着化、統一的使用が図られた結果が、上記のような新聞記事の記載として表れたものであるから、審決の上記判断は誤りである。
また、このような意識的な定着化が図られなかったとしても、原告グループの多角的で精力的な活動に鑑みれば、その営業に必ず「西武セゾングループ」、「西武セゾン」、「セゾン」、「セゾングループ」の4つのいずれかの標章が使用されていれば、この4つに共通する「セゾン」が一般に原告グループの略称とされることは当然であり、実際にも、そのような現象が生じていたのである。
(3) 取消事由3(商標法4条1項10号の適用についての判断の誤り)
ア 上記(2)のとおり、「セゾン」は原告グループの略称として著名であった。
イ 「せぞーん」「セゾーン」「SAISON」は昭和43年以来、本件商標と同一又は類似商品に使用されていた。
また、原告グループは、本件商標出願前から、定期刊行物「快適生活大研究〔セヅン〕暮らしのオンラインカタログ」(年4回発刊、発行部数昭和63年10月16日発刊のもので55万9000部)、「MONTHLY INDEX/SAIS◎N CLUB」、「SAISON JOURNAL」(毎月3回発行、発行部数約9万7000ないし10万部)、「Petite SAIS◎N」(前記(2)イ<4>の小冊子)に「セゾン」「SAIS◎N」の標章を使用してきた。
ウ 上記ア及びイにより、「セゾン」「SAIS◎N」は、原告グループの発行する印刷物(定期刊行物)を表示する商標として需要者間に広く知られていた。
エ 本件商標は、前記(1)のとおり、「セゾン」「SAIS◎N」に類似し、第26類の印刷物を指定商品としているから、商標法4条1項10号に反して登録されたものである。
(4) 取消事由4(商標法4条1項15号の適用についての判断の誤り)
ア 原告及び原告グループが、「セゾン」「SAISON」及び「SAIS◎N」の表示のもとに広汎な事業を行った結果、その標章が著名になっていたことは前記(2)のとおりである。
イ 原告グループの通信販売
原告、原告グループに属する株式会社西友は、前記「Petite SAIS◎N」の一部分を利用した通信販売を行っている。また、前記エス・エス・コミュニケーションズがチケットセゾンの営業表示のもとで各種チケットの販売を行っていることは前記のとおりであるが、これも、各種媒体に宣伝広告をし、それを見た消費者が電話で申込みをするという点で、通信販売といえるものである。
ウ 原告グループの印刷物
原告グループが、本件商標出願前から、定期刊行物「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」、「MONTHLY INDEX/SAIS◎N CLUB」、「SAISON JOURNAL」、「Petite SAIS◎N」に「セゾン」「SAIS◎N」の標章を使用してきたことは、前記(3)のとおりである。
また、他にも「クレジットメーラー」と呼ばれる商品ごとのカタログないしパンフレットがあり(発行部数昭和63年12月19日付のもので46万8621部)、セゾンカード利用者に対して送る請求書に同封される。さらに「封書DM」と呼ばれるものがあり(発行部数昭和63年11月17日付のもので40万部)、主として新聞等を見て商品を申し込んだ顧客に送付するもので、その中には各種カタログが同封される。これらの封筒、カタログないしパンフレットにもセゾン等の標章が使用されている。
エ 本件商標は、「ギフトセゾン」と一連に称呼されるとしても、「セゾン」のギフト(贈り物)と観念され、「セゾン」商標の主体である原告グループのギフト商品あるいはその宣伝物であると誤認混同されるおそれがある。
審決は、本件商標から「贈り物の季節」なる観念が生ずると判断したが、本件商標からそのような観念が生ずるとすることは、「ギフト」の普通名称性及び「セゾン」の和訳の周知性の低さを考慮すれば、経験則に反するものである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1及び2の事実は認める。同3は争う。
2 被告の主張
(1) 取消事由1について
ア 原告は、「ギフト」が贈答品を示す普通名称であるので、それ自体では自他商品の識別機能を有しないのに対し、「セゾン」は、日本語としては未だ普通名詞化しておらず、需要者の意識が「セゾン」の方に集中するかの如く主張する。
しかし、本件商標の「ギフト」も「セゾン」ももともと外来語の一般名詞であるという点においては軽重の差はなく、かつ「ギフトセゾン」が同一の大きさ、書体により表記されていることからみても、これを分離して称呼、観念すべき格別の理由はない。「ギフト」が英語であって普通名詞として定着しているということと、「セゾン」がフランス語であって「ギフト」に比べれば馴染みが薄いということは程度の問題にすぎず、このような相対的な比較だけで、「セゾン」が日本において普通名詞化していないということはできない。特に、「セゾン」はフランス語の中でも比較的簡単で覚えやすい単語であり、英語の「SEASON」と綴りも似通っている。したがって、「ギフト」が贈答品を示す普通名称であることを理由に本件商標の要部が「セゾン」になるという原告の主張は当たらない。
イ 原告は、本件商標が商品カタログに使用された場合には、「ギフト」の部分は単にカタログが「贈答品」のカタログであることを普通に示す機能を有するに止まり、自他商品識別機能を有しないとして、本件商標の要部が「セゾン」となる旨主張する。
しかし、本件商標の指定商品は「印刷物」であって「贈答品」ではない。「印刷物」の中に「贈答品用カタログ」が含まれるというのは、印刷物の内容の問題であり、指定商品とは関連づけられるべきものではない。
本件商標の自他商品識別機能は指定商品との関係で議論されるべきであって、指定商品が「贈答品」ではない以上、仮にギフトが「贈答品」を意味する語であるとしても、商標としての自他商品識別機能がないとはいえない。
ウ 原告は、著名な百貨店等がカタログに「ギフト」「GIFT」の語を使用していると主張する。しかし、それらは、それがギフトカタログであることを普通に示す用語として「○○○ギフト」や「○○○ギフトカタログ」などのように用いられている。しかし、被告のカタログのタイトルは「ギフトセゾン」「GIFT SAISON」のように「ギフト」ないし「GIFT」を「セゾン」ないし「SAISON」の前に付して一体として使うことにより、被告カタログの独自名称としての機能を営んでいるのであり、特に「セゾン」ないし「SAISON」のみが需要者の注意を引き付ける要部として使用されているのではない。
エ また、原告は、被告のカタログや新聞広告に表示された標章を問題としているが、引用商標との類否判断になるのは本件商標であるから、上記標章の表記の態様は、類否判断の斟酌事情とはならない。
オ さらに、原告は、小嶋外弘及び棚橋菊夫作成の平成7年2月15日付「企業イメージ・商標イメージについての実験調査報告書」、小嶋外弘作成の同年10月15口付意見書並びに小嶋外弘及び棚橋菊夫作成の同月22日付「言語連想実験報告書」を、原告主張の根拠としている。
しかし、上記調査は、調査票の表題に「企業イメージに関する調査」との題名が付されており、各質問の前書にも「企業イメージに関する調査を行っています」と記載されている。これでは、調査対象者の意識が「企業」という言葉に集中し、「セゾン」という言葉から受けるイメージの範囲が無意識に「企業」に関連するものに限定されてしまうため、「ギフトセゾン」というタイトルのカタログを見たときに「セゾン」という何らかの企業が発行するカタログを想起すると回答する者が多く表れたにすぎない。
また、上記調査の問6の、「ギフトセゾン」という名称の「ギフト」と「セゾン」のどちらに注目するかという質問については、あくまでも相対的な問題であり、「セゾン」に注目する者の方が他の者より多いからといって、「セゾン」が要部であるとの結論には直ちには結び付かない。しかも、「ギフト」に注目すると回答した者と「ギフトセゾン」を一体のものとして認識すると回答した者の合計も44.6パーセントにのぼっており、「セゾン」に注目すると回答した者との間に決定的な差はない。上記の結果からは、本件商標は「ギフト」も「セゾン」もいずれも要部とは断定できないと考える方が自然である。
カ 引用商標2ないし4は、既に存続期間満了によって抹消登録されている。既に失効した商標権に基づく原告の主張は、本件商標と引用商標2ないし4の類似性の有無の判断をするまでもなく、理由がない。
のみならず、原告が上記各引用商標を失効させたことは、もはやこれらの引用商標は原告にとっては必要ないとの態度の表れ、あるいは、これらの引用商標に基づく権利行使を原告が放棄するとの意思の現れというべきである。
(2) 取消事由2について
ア 原告主張に係る新聞広告、ポスター広告、テレビやFM放送番組、イベント、新聞の見出し、セゾンカード、定期刊行物等の活動は、「西武セゾングループ」ないしは「セゾングループ」という企業グループを著名にする活動が行われていたという意味しか有しない。そして、原告グループが「西武セゾングループ」「西武グループ」ないしは「セゾングループ」として著名となっていたとしても、単に「セゾン」と略称するだけで、それが原告グループを示すことが需要者間に広く浸透していることには何らなり得ない。
イ 原告グループが名称を「西武セゾングループ」から「セゾングループ」に改めたのは平成2年7月であり、その時点では、未だ周知名称としては発展途上段階であったにすぎない。また、新聞記事においても、何らの前置きをせずにいきなり原告グループを「セゾン」と略しているものはなく、記事の中で「セゾン」と略す場合には、記事中のいずれかの部分においてまず「セゾングループ」と表記して、「セゾン」が「セゾングループ」を略したものであることが紙面から分かるようにしている。
ウ このように、原告の標章である「セゾン」はそれ自体単独で原告ないし原告グループを想起させるほどに著名となっているのではなく、「西武」という別の周知標章を媒介とし、あるいは「西武グループ」ないし「グループ」という何らかのグループ名称であることを想起させる言葉と相まって、原告グループの営業を認識させる構造となっているのである。このような構造は「西武」の表示の周知性ないしは「グループ」という言葉の持つ機能によって成り立っているのであり、「セゾン」そのものが独立して著名になっていることに基づくのではないのである。
(3) 取消事由3について
ア 原告は「セゾン」が原告グループの略称として著名であったと主張するが、これが事実に反することは上記(2)のとおりである。
イ 原告は、「せぞーん」「セゾーン」「SAISON」は昭和43年以来、本件商標と同一又は類似商品に使用されていたと主張する。しかし、登録商標権を古くから有することと、それらの商標が著名であることは別の問題である。しかも、引用商標1(「せぞーん」)については、本件商標の出願時には既にその使用実態は皆無となっていた。
ウ また、引用商標2ないし4は、既に存続期間満了によって抹消登録されている。してみると、原告の商標の使用実態からしても、「セゾン」が原告グループの商品を表示するものとして需要者間に広く認識されているということには全くならない。
エ さらに、本件商標が引用各商標に類似しないことは上記(1)のとおりである。
(4) 取消事由4について
前記のとおり、本件商標と引用各商標との間に類似性は認められず、かつ、本件商標中の「セゾン」の部分だけでは原告グループの著名な略称とも認められないから、本件商標と原告グループの営業との間に誤認混同の生ずるおそれはない。
そして、本件商標には原告グループを想起させるような「西武」も「グループ」も用いられていないのであるから、仮に原告グループが「西武セゾングループ」「西武グループ」ないしは「セゾングループ」として著名であったとしても、これと本件商標とは明確に区別、識別が可能であり、両者に誤認混同のおそれはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
第2 そこで、まず、審決の取消事由4について判断する。
1 成立に争いのない甲第7、第16号証、第124ないし第126号証、第131、第132号証、第133号証の1ないし16、第138ないし第145号証、第151号証、第152号証の1ないし6、第154号証の1ないし5、乙第30号証(甲第16、第131、第132号証、第138ないし145号証、乙第30号証は原本の存在及び成立に争いがない。)、弁論の全趣旨により成立を認める甲第135、第150、第153、第162号証、原木の存在及び官公署作成部分の成立については争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨によって成立を認める甲第148号証、原本の存在に争いがなく、成立については弁論の全趣旨により成立を認める甲第149号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告グループは、原告を中心として、株式会社西友ストアー(後に株式会社西友と改名。)、西武産業株式会社、株式会社マンロー商会、西武青果綜合食品株式会社、朝日ヘリコプター株式会社、東洋航空事業株式会社が、昭和38年7月から、グループ名称を「西武百貨店・流通資本グループ」と称して密接な事業提携の下で結束するようになって結成された。原告グループは、その後グループ名称を「西武流通グループ」と変更してグループ傘下の企業を増やし、昭和60年にはグループ名称を「西武セゾングループ」と、さらに平成2年7月にはグループ名称を「セゾングループ」とそれぞれ変更して現在に至っている。
原告グループは、昭和63年には、原告、株式会社西友、株式会社パルコ、株式会社ファミリーマート、株式会社西洋環境開発、朝日工業株式会社、株式会社西武クレジット、株式会社レストラン西武、朝日航洋株式会社、株式会社西武オールステート生命保険の10社を構成基幹会社とする、研究所を含むグループ構成企業数が約120社にのぼる企業グループであり、売上高は昭和61年で3兆800億円、従業員数は昭和62年で約7万6900名であった。このように、原告グループの事業活動は、流通業を始め、不動産・観光事業、製造業、クレジット・ファイナンス事業、外食産業、航空・物流事業、保険業など多岐にわたっており、後記(3)イ認定に係るカタログ等を利用した通信販売も行っていた。その結果、昭和63年12月当時、原告グループの名称は我が国において消費者一般に広く知られるに至っていた。
(2) 昭和63年ころ、原告グループに関係する法人ないし施設には、株式会社セゾンコーポレーション、財団法人セゾン文化財団、銀座セゾン劇場、ヴィルセゾン小手指並びに株式会社シネセゾン及び同社に関係する映画館シネセゾンつくば、シネセゾン渋谷、シネセゾン所沢などがあった。
(3) 原告グループ各社の営業のうち、昭和63年ころにおいてセゾン等標章の使用の顕著なものは次のとおりである。
ア 「セゾンカード」について
株式会社西武クレジットは、「セゾンカード」と称するクレジットカードを発行してクレジット事業を行っていた。
「セゾンカード」は、昭和58年、原告グループの統一カードとして発行が開始されたクレジットカードであるが、その表面には、「セゾンカード」の文字が表面上段に横書きで小さく書かれているほか、「SAIS◎N」の標章が一際目立つように大きく記載されている。「セゾンカード」の発行枚数は、昭和60年1月末で380万枚、昭和63年1月末で550万枚であった。
同社は、セゾンカード利用者に毎月利用明細書のほか、「プチ・セゾン(Petite SAIS◎N)」と称する小冊子を同封して送付し、これにより原告グループ各社の通信販売事業の広告活動を行っていた。「プチ・セゾン」は「Petite」と小さく横書きし、その下段には線を引いて「プチ・セゾン」と小さく記載し、「SAIS◎N」を大きく横書きし、その下段には「5月の西武」などと小さく記載されている。また、その記事中には「《セゾン》カード」、「セゾン オリジナル 旅行ギブト券」、「《セゾン》Stサホロツアー」、「《セゾン》ニュース」等「セゾン」を強調した記載等がされていたほか、前記「銀座セゾン劇場」、後記「チケット・セゾン」等の広告もされていた。「プチ・セゾン」の発行部数は、昭和60年には114万部、昭和63年には165万部であった。
また、同社は、様々な種類のポスターによるキャンペーンを行っており、昭和59年ころから、ポスターには上記「SAIS◎N」の標章が大きく記載されたセゾンカードの絵のほか、「カードは、《セゾン》。」、「西武セゾングループ」、「お申し込みは、西武百貨店・西友・パルコほかの<セゾン>カウンターへどうぞ」等と記載されていた。
イ 原告グループによる通信販売事業
原告グループに属する会社(現在の名称は株式会社セゾンダイレクトマーケティング)は、「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」を顧客に送付し、セゾンカードの利用者に送付される「プチ・セゾン」及び「クレジットメーラー」を利用し、あるいは新聞等の刊行物に商品の広告を掲載して注文を受けるという形態の通信販売を行っていた(なお、乙第30号証は、1991年冬季の発行であるが、弁論の全趣旨に徴し、本件商標の出願時においては、同様の表示がなされていたものと推認される。)。
上記「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」は、昭和63年ころは年4回発行され、発行部数は35万ないし55万部である。上記「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」の表紙には、「快適生活大研究」「SAIS◎N」「セゾン」「暮らしのオンライン」の文字が記載されていた。
また、上記「プチ・セゾン」及び「クレジットメーラー」が送付される封筒にも「SAIS◎N」の標章が使用されていた。上記「クレジットメーラーは昭和63年ころは毎月1回発行され、発行部数は約23万ないし46万部であった。
ウ 「チケット・セゾン」について
株式会社エス・エス・コミュニケーションズは「チケット・セゾン」ないし「チケットセゾン」の営業表示のもとに、各種チケットの販売を行っていた。同社は、前記「プチ・セゾン」等を利用するほか、昭和59年10月以来、毎週土曜日の朝日新聞東京本社版朝刊第1社会面全二段を固定欄として用いてその宣伝広告をしていた。上記広告の際には、「チケット・セゾン」の表示のほか、「TICKET」、「チケット・セゾン」、「SAIS◎N」を三段横書きにして方形で囲んだ標章が用いられていた。
エ その他の印刷物における原告標章の使用
株式会社ファミリイ西武は、昭和59年から「セゾンクラブ」の名称で事業を行い、同社ないしその関連会社により同名の会報誌(情報誌兼カタログ)が発行されていた。上記会報誌は、表題部に大きく「SAIS◎N CLUB」と記載されており、小さく「セゾンクラブ」と表示されているものや、裏面に「セゾンクラブ誌に対するお問い合わせは・・・セゾンクラブまで。」と表示されているものがあった。「セゾンクラブ」の会員数は、昭和59年ころは約20万人、昭和62年ころは約40万人であり、会報誌も同程度の部数発行されていた。
(4) 原告グループとしてのセゾン等標章の使用等
ア 原告グループは、昭和60年から年数回、東京、大阪の駅や原告グループの拠点地区で約5000枚のポスターを掲示し、毎日新聞、日本経済新聞に年数回15段の広告を掲載して、グループとしてのCI広告を行い、その下隅又は上隅に「SAIS◎N」の標章を付して更にその下段に「西武セゾングループ」と小さく記載していた。原告グループの上記CI広告のための支出額は、昭和61年度は約3億3400万円、昭和62年度は約3億1900万円、昭和63年度は約3億6200万円であった。
イ 原告グループは、昭和54年からほぼ全国で放送される約2時間のテレビドラマのシリーズを提供していたが、昭和60年からは、その副題を「西武スペシャル」から「セゾンスペシャル」と改めた。上記シリーズは、昭和63年11月までに21回(副題を「セゾンスペシャル」としてからは8回程度)放送された。
同番組では、「この番組は西武百貨店、西友、西武クレジットでおなじみの西武セゾングループがお送りいたしました。」と放送されるとともに、「SAISON SPECIAL」の文字が画面上に現われる。
また、同番組の事前宣伝として、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞等に新聞広告がされ、テレビでも15秒程度のテレビスポットが流されたほか、多数の新聞、雑誌等でドラマの内容紹介がされている。上記シリーズの番組の視聴率は、関東及び関西でほとんどの場合10パーセント以上、高いときには28.7パーセント(副題を「セゾンスペシャル」としてからの最高は21.3パーセント)を記録した。
(5) 昭和63年において、原告グループに関する新聞報道で、見出しに「セゾン」が記載されているものは37件、見出しに「セゾングループ」が記載されているものは27件、新聞記事に「セゾン」が記載されているものは40件、新聞見出しに「西武セゾン」が記載されているものは83件、新聞見出しに「西武セゾングループ」が記載されているものは90件、新聞記事に「西武セゾングループ」が記載されているものは759件であった。
2 以上の事実、とりわけ、原告グループのクレジットカードとして「セゾンカード」と称され「SAIS◎N」が大きく記載されたカードが多数発行され使用されていること、原告グループ各社の発行に係る「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」、「プチ・セゾン」、「セゾンクラブ」等のカタログ類はいずれも「セゾン」の称呼が共通していること、原告グループの営業表示や施設では「チケット・セゾン」ないし「チケットセゾン」、「セゾン文化財団」、「シネセゾン」、「銀座セゾン劇場」のように他の語と「セゾン」とを結合させた構成の言葉が使用されていることなどの「セゾン」を含む標章の使用例の事実に原告グループが前記(2)認定のとおり広範な事業活動を行い、我が国において広く消費者一般にその名を知られていた事実を総合すれば、セゾン等標章は、いずれも本件商標出願時である昭和63年12月22日までには、カタログ類等をはじめ印刷物一般の取引者・需要者の間で、原告グループの営業に関連するものとして、「セゾン」の称呼(「SAIS◎N」も「SAISON」も「セゾン」と称呼された。)とともに広く認識され、原告グループを想起させるものとなっていたと認められる。
3 本件商標についてみるに、成立に争いのない甲第101号証、第156号証、第157号証の1、2、第158号証の1ないし9、第160、第161号証(甲第101号証は原木の存在及び成立に争いがない。)、弁論の全趣旨により成立を認める甲第159号証によれば、本件商標を構成する「ギフト」は「贈り物」を意味する英語としてよく知られており、カタログ類を含む各種印刷物にも、「プリンスデリカとぺぺのギフトセレクション」、「MITSUKOSHI GIFT CATALOGUE」、「GIFT CATALOGUE・・・ISETAN」等と「贈り物」の意味でよく用いられていることが認められる。他方「セゾン」は、「四季」あるいは「季節」を意味するフランス語の「SAISON」に近い日本語の音韻の片仮名標記であるが、日本におけるフランス語教育は英語教育に比して格段に低く消費者一般に広く普及しているとはいえないこと、フランス語あるいはフランス語に由来する外来語を使用することも特殊な商品を除いては例外的であること等(以上は当裁判所に顕著な事実である。)に照らせば、「SAISON」から「セゾン」の称呼が生じるものとも、「SAISON」あるいは「セゾン」の語に接したときに、直ちに「四季」あるいは「季節」の観念が生じることが一般的であるとも認めることができない(本件商標出願時には、「SAIS◎N」も「SAISON」も「セゾン」と称呼するとの認識が広まっていたが、それは原告グループの使用するセゾン等標章が著名となったためであることは前認定のとおりであって、一般にフランス語の知識が普及してその発音が広く認識されたことが原因とは認められない。)。そうすると、本件商標は「贈り物」という言葉と「セゾン」という言葉とを結合した構成の商標と認識されるというべきである。
4 以上の事実からすれば、本件商標をカタログ類等の印刷物を含む第26類の商品に使用するときは、取引者・需要者は、本件商標の構成もあいまって、「セゾン」の文字に注意関心を惹かれ、これをあたかもセゾン等標章を使用する原告グループの構成会社の業務に係る商品であるかのように連想して商品の出所を誤認するおそれがあるものといわざるを得ない。
そうすると、本件商標は、その出願の時に原告グループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったというべきである。
5(1) もっとも、原告は、本件商標と引用各商標との間に類似性は認められず、かつ、本件商標中の「セゾン」の部分だけでは原告グループの著名な略称とも認められないから、本件商標と原告グループの営業との間に誤認混同を生じるおそれがないと主張する。しかしながら、本件商標が、引用各商標ないしこれと同一であるセゾン等標章と非類似であり、「セゾン」が原告グループの著名な略称ではないとしても、前記1ないし4認定の事実のもとにおいては、商品の出所について混同を生じるおそれがあるというべきであるから、原告の上記主張は失当である。
(2) また、成立に争いのない乙第24号証の1ないし7、第25号証の1ないし6、第26号証の1、2(乙第24号証の1ないし7は原本の存在と撮影者、撮影年月日、撮影場所に、第25号証の3ないし6、第26号証の1、2は原本の存在及び成立に、それぞれ争いがない。)によれば、新潟県長岡市に本店を置く越後ステーション株式会社(昭和54年設立、資本金2億800万円)及びその関連会社であるセゾン商事株式会社(昭和55年設立、資本金400万円)がJR新潟駅及びJR長岡駅において経営、管理する駅ビルは、いずれも「セゾン」と称され、ビル正面の壁面や案内板等目立つ場所に「SAISON」の表示が掲げられていることが認められ、上記事実によれば、新潟市、長岡市あるいはその周辺地域においては「セゾン」といえばそれらの駅ビルあるいは駅ビル内の営業を指すという認識も生じているものと推認されるけれども、それが上記周辺地域を超えて全国に及んでいるものとは到底認められない。したがって、上記各証拠は、本件商標と原告グループの業務に係る商品との混同を生ずるおそれに関する前記認定を左右するに足りるものではない。
(3) 原本の存在及び成立に争いのない乙第50号証、第54号証の4によれば、三菱重工業株式会社は商品区分第9類、パッケージタイプエアコンディショナ等を指定商品とする「SAISON」の文字をデザインした文字からなる商標について、昭和54年に商標登録を出願し、昭和60年に商標出願公告を得ていること及び平成4年4月ころには「セゾンエアコン」との商標のエアコンを販売していることが認められるが、上記「セゾンエアコン」が昭和63年以前から発売されていたことを認めるに足りる証拠はない上、前掲乙第50号証によれば、上記「セゾンエアコン」は店舗用のものであることが認められるから、「セゾンエアコン」が同社の店舗用エアコンの商品表示として店舗用エアコンの取引者、需要者に知られることがあっても、「セゾン」の表示がカタログ等の印刷物を含む第26類の商品の取引者・需要者に、同社の一般の商品表示、営業表示としてよく知られていたと認めることはできない。したがって、上記各証拠も、本件商標と原告グループの業務に係る商品との混同を生ずるおそれに関する前記認定を左右するに足りるものではない。
(4) 原本の存在及び成立に争いのない乙第54号証の1ないし3、5ないし13によれば、昭和50年代から昭和63年にかけて、いくつかの会社を出願人とする、「セゾン」あるいは「SAISON」から構成される商標の商標出願公告がされていることが認められるけれども、それらの商標が現実に使用されている事実及びそれらがそれぞれの使用者の営業あるいは商品の表示として広く社会に認識されていると認めるに足りる証拠はない。
(5) 原本の存在及び成立に争いがない乙第31ないし第49号証、57号証の1ないし43、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第23号証の1ないし29によれば、平成3年、4年ころにおいては、前記(2)の2社以外にも、全国各地にその商号中に「セゾン」の表示を含む法人等、営業表示に「セゾン」、「SAISON」を含む営業者が相当数あったことが認められるものの、上記各証拠によれば、その法人の半数近くは平成元年以降に設立されたものであること、その法人はほとんどが資本金1000万円以下で、資本金2000万円程度のものが若干あるにすぎないこと、各法人ないし営業者の営業規模は、原告グループの営業規模に比べれば微々たるものであることが認められるから、上記各証拠は、本件商標と原告グループの業務に係る商品との混同を生ずるおそれに関する前記認定に反するものではない。
(6) また、乙第53号証の2ないし4には、被告代表者がしたアンケート調査の結果は前記認定に反するものである旨の記載があるが、上記アンケートは、調査対象、調査方法がどのようなものであったかを認めるに足りる証拠がなく、調査対象の抽出、調査方法の設定が学問的根拠に基づく適正なものであったか否かの判断すらできず、その内容が信頼できるものであるということはできないから、前記4における認定を左右するものではない。
(7) さらに、乙第55号証の1ないし141には、「セゾン」ないし「SAISON」の文字の含まれた被告のカタログを取り扱っている販売代理店について、原告グループと混同誤認したことはなく、また、顧客からも被告のカタログに載っている商品が原告グループが扱っている商品であるかどうか等の質問を受けたこともない旨の記載がある。しかしながら、上記記載は、前記1において認定に用いた各証拠に照らして直ちに信用できないのみならず、それらの販売代理店が、被告の販売代理店全てであることを認めるに足りる証拠はないし、販売代理店の顧客が原告グループとの関係について質問をしなかったからといって、混同をしていなかったということもできないから、上記証拠は、前記4における認定を左右するものでもない。
6 なお、前掲甲第150号証、第162号証及び弁論の全趣旨によれば、平成3年ころには、原告グループには、更に、株式会社クレディセゾン(前記西武クレジットが社名を変更したもの)、株式会社セゾン生命保険、株式会社セゾンダイレクトマーケティング、セゾン美術館などが存在するようになったこと、セゾンカードの発行枚数は昭和63年から更に増加していることが認められ、以上の事実に前記1、2において認定の事実を総合すれば、本件商標の登録査定時である平成3年5月17日(成立に争いのない甲第2号証の1により認める。)においても、本件商標は原告グループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったものというべきである。
また、成立に争いのない甲第4ないし6号証の各1によれば、本件審決時には、引用商標2ないし4は存続期間が満了していた(引用商標2及び3については、抹消登録もされていた)事実が認められるけれども、原告グループがセゾン等標章の使用を継続していることは弁論の全趣旨並びにこれにより原本の存在及び成立を認める甲第147号証により明らかであるから、上記事実は、前記認定を左右するものではない。
7 以上のとおり、審決は、本件商標が、原告グループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったにもかかわらず、そのおそれがないと誤認したものであり、その誤りが本件商標の登録を商標法4条1項15号に違反しないとした審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
なお、同号は、同項10号及び11号に該当する商標を除いて適用されるものであるから、本件商標がセゾン等商標に類似していることを理山として同項15号該当性を論じる場合には、まず、同項10号及び11号該当性を判断し、これに当たらない場合に同項15号が適用されると解される。しかしながら、本件においては、本件商標が引用商標と同一ないし類似することを理由として原告グループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったと判断するものではないから、同項10号及び11号該当性の有無について判断するまでもなく、審決の誤りは同項15号に違反しないとした審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。
よって、審決は、その余について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。
第3 結論
よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日・平成10年1月22口)
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)
別紙
<省略>